ラップからレースを想像してみる

競馬のレースを、最小単位のハロンにまで分解することによって、よりレース展開の細かい解析が可能となります。ハロンごとの通過タイムをラップタイムと呼び、レースはラップタイムの連続によって構成されています。

ラップタイムを分析することで、そのレースで一体何が問われたか、上位入線した馬が共通してどのような能力を満たしていたかを推測できます。一つ一つのレースで何が問われたかを把握し、各馬の能力の特徴に関して理解を深めていけば、より精度の高い予想が可能となり、的中率・回収率ともに向上すると言えます。

ラップタイムからレースの全貌を暴く

レースの全容を明らかにするためには、そのレースを細かく刻んで一つ一つ分析する必要があります。競馬のレースを細かく分割するための最小単位がハロン(F)であり、ハロンごとの通過タイムのことを、ラップタイムと呼びます。

馬の平均スピードであるハロンあたり12秒を基準に、0.5単位でラップタイムを分類し、ハロンごとのレースのペースのアップダウンを正確に掴みます。そのアップダウンの程度と、レースの中におけるどのタイミングで行われたかに注目することで、そのレースの全貌が明らかになると言えます。

  

ラップタイムを分類する

ラップタイムの分類
超速 普通速 普通遅 超遅
~11.0 11.1~11.5 11.6~12.0 12.1~12.5 12.6~13.0 13.1~

サラブレッドの平均スピードは約時速60キロです。ハロン単位に直すと1F12.0。この単位を基礎値と設定し、その前後を0.5単位で分類します。距離によって多少の差異はありますが、基本的に競馬のレースのラップタイムのほとんどは、11.0~13.0の間を行き来します。

サラブレッドは、ハロン15秒までは完全な有酸素運動で走ります。15秒より速くなると、完全な無酸素運動になるかというとそうではなく、全力疾走になるまでは有酸素と無酸素の両運動を同時に使用します。スピードが上がれば上がるほど、無酸素運動に費やす比率が高くなります。ハロン単位の0.5のタイム差などわずかなものに思えますが、サラブレッドの運動能力からすると大きな差異であり、0.5ラップタイムが上下するだけで、その運動を行う個体に対して多大な影響を与えます。その意味で、ラップタイムの分類はレース内容を掴むことにおいて、重要な意義を持つと言えます。

  

レースのペースのアップダウンをラップから掴む

レースのペースが、ラップ単位でどのように推移しているかを掴むことが、レース内容を知る上で重要な手がかりとなります。2006年度の天皇賞を例に挙げてみます。

例:2006年 天皇賞(秋)
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
12.8 11.3 11.3 11.4 12.0 12.1 12.3 11.9 11.2 12.5
2006天皇賞秋グラフ

表だけだと若干掴みづらいですが、グラフを見れば、レースがどのような動きを見せたかが一目瞭然です。いびつな「W」字型にレースが変遷しているのが分かるかと思います。前半と後半に一度ずつペースアップがあり、最初と最後、そして中間にペースダウンが見られます。それぞれのペースの変化が生じた原因を考えてみます。

  

アップダウンの程度とタイミングが重要

スタートでダッシュがまだついていない1F目は12.8と「遅」になります。ダッシュがついた2F目からポジション争いが本格化し、ペースが上がって11.3と「速」のラップを刻みます。本来であれば、この2F目でポジション争いは終結し、3F目からはまたペースが落ちることが多いのですが、このレースは3F・4Fと「速」のラップを刻み続けます。このことから、前半はかなり厳しいペースで流れていると言えます。

5F~7Fで、さすがにこのままのペースではバテてしまうので、「普通速」を経て「普通遅」まで一旦ペースが落ち着きます。東京競馬場の600mの直線の手前で、意識的に息を入れたと考えられます。しかし息が入ったといっても極端にラップが落ちたわけではないので、相変わらず厳しいペースであることには変わりありません。

そして、直線を向いて再び「普通速」から「速」へと加速し、最後の追い比べに突入します。最後の1Fが「普通遅」まで減速したのは、前半からここまで、スタート後1Fを除き一度も「遅」以下のラップを刻んでいない厳しいレースだったことによるスタミナ切れが発生し、ゴール前で脚が上がったものと考えられます。

レースタイプ別ラップ推移

レースのタイプ分類で6つに分けたレースのラップの推移を、一つのグラフにまとめることによって、よりその違いを明確に掴むことができます。

タイプ別ラップ推移
右肩上がり型:2006/5/27 東京 3歳500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
13.2 12.1 12.2 12.8 13.0 12.3 12.1 11.3 11.4 12.5
ヨーイドン型:2005/5/14 東京 3歳500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
13.2 11.9 12.0 12.5 12.7 12.5 12.4 11.2 11.5 11.6
直線手前スロー型:2006/5/13 東京 夏木立賞
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
12.6 11.3 11.2 12.0 13.0 12.9 13.2 11.9 11.5 12.1
一本調子型型:2005/10/08 東京 3歳500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
12.8 11.2 11.2 11.4 12.0 12.4 12.5 11.9 12.0 13.1
緩急型型:2005/11/12 東京 3歳500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
13.0 11.7 11.9 12.0 12.4 12.4 12.5 11.9 11.2 12.0
一定型:2005/10/09 東京 3歳500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
13.1 11.5 11.7 11.6 12.1 11.9 12.3 11.9 12.0 12.4

ラップを見ることで細かい解析が可能になる

ラップを見ることで、そのレースの特徴が把握でき、それによって、そのレースが一体どういう系統の能力が問われる内容だったかを推測することが可能となります。そして、レース結果と照らし合わせることで、そのレースに出走していた馬の能力の特徴を掴むことが出来ます。

  

ラップからそのレースで何が問われたかがわかる

問われるものは、もちろん馬の能力です。ラップを並べることで、馬の能力のうち、何が必要とされるレースだったかを確認することが出来ます。

例①:2006/10/08 東京9R:3歳上500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
12.8 11.2 11.2 11.4 12.0 12.4 12.5 11.9 12.0 13.1
例②:2006/11/18 東京7R:3歳上500万下
1F 2F 3F 4F 5F 6F 7F 8F 9F 10F
12.5 11.6 11.6 12.9 12.8 12.6 12.1 11.1 11.6 12.1

①のレースでは、2F~4Fに立て続けに「速」のラップが刻まれており、6F・7Fで多少緩むものの、結局は前半の速いラップに耐えられなかったために、8F・9Fでもそれほどスピードアップが出来ず、10Fでは急激に減速します。

このレースで問われたものは、前半の速いペースに耐えられるだけのスタミナと、きついレースの中でも最後まで勝利への執念を捨てることのない勝負根性、底力でした。両方の能力が備わっていて初めて、上位入線が出来たと言えるでしょう。

一方の②のレースでは、ポジション争いで速くなりがちな2~3Fでさえ「普通速」程度で、その後「遅」のラップが3連発で並びます。これだけ楽なペースで進めば、必然的に後半に余力が残っており、8F目ではレース最速ラップを記録します。

このレースでは、余力が十分にある状態で、いかに優れた最高速度を発揮できるかが問われるました。前半が楽だった分、スタミナや底力がなくても上位争いを出来たレースです。①のように、前半でスタミナを大幅に削られるレースでは力が発揮できない馬でも、②のように余力十分同士での争いでは台頭できることはよくあります。

  

馬の能力の特徴を掴むことが出来る

レースで何が問われたかを把握することが出来たならば、そのレースで上位入線した馬、下位入線した馬の能力の特徴が推測できます。上位入線出来た馬は、問われたものに対する適応力が高かったと考えられ、逆に下位入線だった馬は、そのレースで問われたものに対する適応力が低い、あるいは持ち合わせていないという結論になります。

こうして、馬がレースを消化していく度に、各レースで何が問われたかを把握していけば、自ずと各馬の能力の特徴が見えてきます。能力の特徴を掴むことができたならば、その馬の能力が発揮できそうなレース展開が予想される時に、その馬の馬券を買うことによって、より的中率・回収率が向上すると言えるでしょう。

「ラップからレースを想像してみる」まとめ

①ラップタイムを分析すること、レースの全容が明らかになる
②ラップタイムは、「超速」~「超遅」の6つに分類できる
③ラップタイムから、レースのペースのアップダウンを掴む
④ペースのアップダウンがレースのどこで起こったかと、その程度が重要となる
⑤ラップからそのレースで何が問われたかを掴む
⑥レースで何が問われたかを把握し、そのレースに出走していた馬の能力の特徴を掴む
⑦馬の能力の特徴の把握と、レース展開予想の合致がより高い的中率・回収率を生む

レースを最小単位のハロンに分解することで、より精密な分析が出来ます。そのハロンごとの通過タイムをラップタイムと呼び、ラップタイムを並べることでレースの全容を掴むことが出来るようになります。

ラップタイムは、「超速」~「超遅」の6段階に分類できます。レースの中で、この6段階のラップがどのように推移していくかが、そのレースの内容を表していると言えます。

ラップタイムによるペースのアップダウンは、そのタイミングと程度が重要になってきます。前半部で速いラップが続くならば、スタミナや底力が問われるレースという判断が出来、後半部で続くならば、余力がある状態での瞬発力が問われるレースという判断が出来ます。その程度が激しければ激しいほど、レースの特徴が色濃く表れていると言えます。

ラップタイムを並べることで、レースで何が問われたかを把握することが出来、それにより、そのレースに出走していた馬の能力の特徴を掴むことが出来ます。馬の能力の特徴が、一体どういうレース展開において最大限力を発揮するかを理解することが出来れば、それに沿ったレース展開が予想される場面でその馬の馬券を買うことによって、より高い的中率・回収率を狙うことが出来ると言えます。

ラップの使い方を勉強したところで、次はラスト3Fの重要性についてです。競馬をやる方ならば、色々な場面で上がり3Fというキーワードを耳にするでしょう。上がり3Fが重要視される理由とはなんなのでしょうか。考えていきたいと思います。


    

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