脚質の決定と位置取りの分析

馬の脚質は、馬の個々の特徴と、騎手の個性や能力、そして陣営の思惑によって決定されます。巷では、逃げ・先行・差し・追い込みの4つが基本的な脚質として認知されていますが、実際はその4つで表せるほど馬の脚質は単純ではありません。ここでは、過去5走のレースの通過順から、基本脚質を9つに分類します。

脚質の設定において重要となるのは、競馬新聞片手に競馬場へ行った人が、その場で過去5走の馬柱を見て、誰もが各馬の基本脚質を導き出せて、それに各種の補正情報を加え、次レースで採用される確率の高い脚質を設定し、結果的に精度の高い展開予想が可能となることです。展開予想には、各馬の脚質を正確に掴むことが必要不可欠です。

脚質はどのように決定されるのか

馬の脚質は、各馬の特徴、騎手の個性と能力、陣営の思惑によって決定されます。馬の特徴は変化しませんが、騎手と陣営の思惑はレースによって変化することがあるので、馬の脚質が完全に固定化されることはあまりありません。

 

馬の特徴

馬によってそれぞれ特徴があり、その特徴の長所と短所によって脚質は左右されます。スタートダッシュの鈍い馬なら後方から、逆にスタートダッシュが鋭い馬なら前方からという競馬が選択されます。また、気性的に馬群が苦手な馬であれば、馬群に左右されない極端な位置(最前方・最後方・最外目)での競馬を選択せざるを得ません。また、競走馬の資質面から、陣営が馬の適正にあった脚質を見出すこともあります。

 

騎手の個性と能力

実際に馬の手綱を握る騎手にも、それぞれ個性と技量の差があり、それはそのまま馬の脚質にも影響を与えます。騎手がそれぞれ得意とする戦法に馬を当てはめるケースや、レースのペースを判断し、それに合った位置取りからレースを進める場合もあります。また、騎手の技量が一定レベルに達していないと、馬が本来の脚質でレースを行うことが出来ない場合もあります。

 

陣営の思惑

出走条件が全て出揃った後、それぞれの陣営ごとに作戦を練ります。脚質に融通が利く馬の場合は、他馬との脚質の兼ね合いや、馬場状態を考慮にいれて、陣営が騎手に作戦を授ける場合もあります。

脚質はおおまかに分けると5種類

馬の脚質は、おおまかに分けると「逃げ」「先行」「差し」「追い込み」「後方」の5つに分類することができます。しかし、それだけでは脚質の設定がアバウトなので、それらをさらに2分割していきます。

逃げ

スタート直後から先頭にたち、そのままゴールインすることを目指す脚質です。最短距離を走ることが出来るメリットがある反面、先頭がゆえに風の抵抗を受けやすく、また、他馬から目標にされやすいというデメリットがあります。勝つときは一度も他馬に先頭を譲らないため「逃げて勝つのが一番強い」とも言われます。一方で人気薄の馬が勝利を挙げるときもこのパターンが多く、この場合は警戒されにくいためマイペースで走ることが可能となるからです。

逃げa
とにかく逃げなければ結果がだせない馬。過去に控えた経験が少なく、控えた時の着順がクラス平均に満たない馬。3角の通過順位がほぼ1位。
逃げb
他に逃げ馬の存在があった場合、逃げることが難しいと判断したら早めに控えることができる馬。控えた経験があり、その時の着順がクラス平均を満たす。3角の通過順位が1位以外も多い。

※クラス平均・・・馬が所属するクラスにおける平均着順。

先行

レース前半は逃げ馬の後ろにつけ、後半にそれをかわそうとする脚質です。最もレース中の不利を受けにくいと言われ、安定かつ有力な戦法です。実力のある馬が先行して勝った場合「横綱相撲」と言われます。

先行a
基本は先行も、場合によっては逃げもできる。過去に逃げ経験があり、その時の着順がクラス平均を満たす馬。3角から4角での順位押し上げが目立つ。
先行b
逃げの経験がない、もしくは逃げた時の成績がクラス平均を満たさない先行馬。仕掛けも早めに前にプレッシャーは与えない。3角と4角の通過順位に大きな変動がない馬。
 

差し

レース前半は逃げ・先行馬の後ろにつけ、後半にそれらをかわそうとする脚質です。瞬発力に自信のある馬がこの脚質を選択することがが多いです。先行と並んで多用される戦法ですが、ペースが遅くなると、前の馬との距離の差がそのままレース結果に繋がってしまうことも多々あります。

差しa
3角では中団追走で、早めの仕掛けから4角では先行勢に並びかける。3角と4角の通過順位に変動が大きい馬。
差しb
3角から4角での通過順位に大きな変動がなく、中団追走のまま直線を迎える馬。
 

追い込み

レース前半は差しの戦法をとる馬のさらに後ろにつけ、最後の直線で前を行く馬をまとめてかわそうとする脚質です。勝つときは派手な反面、展開などで不利を受けて敗れることも多くあります。

追い込みa
3角では後方追走で、早めの仕掛けから4角では先行勢に並びかける。3角と4角の通過順位に変動が大きい馬。いわゆるマクリタイプ。
追い込みb
3角から4角での通過順位に大きな変動がなく、後方追走のまま直線を迎える馬。そして、レースの最終順位が後方のままで終わらないという条件が加わる。
 

その他

上記4つの基本的な脚質だけでは説明のつかない脚質を持つ馬がいます。

自在
馬の脚質に融通性があり、どこからでも競馬ができる脚質です。状況に沿った脚質をその場その場で採用できるので、最も有利な脚質といえるでしょう。しかし、自在という脚質でくくってしまうと、レースでの脚質予想の設定が難しくなってしまうため、ここでは採用しません。
後方
追い込みBの状況から、レースの最終順位も後方のままで終わる馬です。なんらかの理由で、レースのペースについていけなかったという判断となります。後方を最後まで追走することは、レースの展開に影響を及ぼさないので、後方という脚質に関して深く考える必要はありません。

基本脚質の決定手順

脚質の分類手順を示すことにおいて重要となるのは、競馬新聞に記載された出走馬の過去5走を振り返って、誰もが出走各馬の基本となる脚質を定めることができ、なおかつ脚質のデータを客観的な値として利用できることだと考えます。馬の脚質を判断するには、過去に行われたレースを振り返り、人間がそれぞれの基準で分類するしかありません。しかし、明確な基準がないと、分類方法があやふやになってしまい、精度の高い脚質設定、展開予想ができません。ここでは脚質設定の基準を、過去5走における3角・4角の通過順と定めます。基本となる脚質を定めることができたならば、そこにいくつかの脚質決定に必要となる補正情報を加え、初めて精度の高い展開予想ができると言えるでしょう。

 

3角・4角での位置取りによって決定する

競馬新聞の馬柱

脚質の設定は、過去レースの3角・4角の通過順から導き出します。右の図の色がついているところが、そのレースでの通過順です。右から順に4角・3角・2角となっています。2角の順位は必要ないので、ここでは3角・4角にだけ注目していただきます。

位置取りの分類

  • A:ハナ=通過順位①
  • B:先団=全体頭数から1/3以内で、かつ5番手以内。
  • C:中団(前)=全体の1/2より前で、A・Bから除外された組
  • D:中団(後)=全体の1/2より後ろで、Eから除外された組
  • E:後方=全体の1/3以降

脚質の決定条件

  • 逃げ=3角でA
  • 先行=3角でB
  • 差しa=3角でC・D→4角でB・A
  • 差しb=3角でC・D→4角でC・D・E
  • 追いa=3角でE→4角でA・B・C・D
  • 追いb=3角でE→4角もE→レースの最終順位がE以外
  • 後方=3角でE→4角もE→レースの最終順位もE

※逃げ・先行に関しては、基本脚質を設定したあと、次レースでの脚質設定においてa・bの分類をするので、この時点では逃げ・先行とだけグルーピングします。

下の表を参考に、右の図の3角と4角の位置取りを分析します。14頭立てで、3角の通過順位が6なので、3角では「C」に位置します。4角では通過順位が3となっているので、4角では「B」に位置しています。位置取りがC→Bと変化しているので、この馬のこのレースにおける脚質は、「差しA」と分類できます。

位置取りの分類
通過順位
頭数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
10頭 A B B C C D E E E E
11頭 A B B C C D D E E E E
12頭 A B B B C C D D E E E E
13頭 A B B B C C D D E E E E E
14頭 A B B B C C C D D E E E E E
15頭 A B B B B C C D D D E E E E E
16頭 A B B B B C C C D D E E E E E E
17頭 A B B B B C C C D D D E E E E E E
18頭 A B B B B C C C C D D D E E E E E E

この方式で、過去5走のそれぞれの馬の脚質が導き出せました。そして、導いた各馬の脚質傾向から、次のレースでの脚質を予想する必要があります。過去5走とも全て同じ脚質で走っている馬は、あまりいません。よって、過去5走の中で最も多く採用されている脚質を基本脚質として決定します。

 

脚質の設定に関する補正情報

基本脚質が設定されたら、それを元に、次のレースでの脚質を予想します。基本脚質に、いくつかの補正情報を加えたものが、実際に次のレースで採用される可能性が高い脚質となります。これらの補正情報は、あくまで脚質に影響を与えるファクターであり、どの程度の影響を与えるかは数値で表すことはできません。その時その時で優先順位が変わってきます。レースにおいて、どのファクターを優先するかは各々の裁量にかかってきます。

   

主な補正情報

逃げ・先行の分類
基本脚質が逃げ・先行となった馬に関しては、過去のレースを参考に、さらにa・bと分類する必要があります。逃げ・先行の分類方法
前走からの距離増減
前走よりも距離が短ければ、ペースが前走よりも速くなる可能性が高いので、前回よりも後方の位置取りになる可能性があります。逆に、距離が長くなると、ペースが前走より遅くなる可能性が高いので、前走と同じ位置を楽に確保出来ます。
枠順
内枠のほうが、外枠よりもポジション確保までに走る距離が短くなるので、先行しやすい利点があります。外枠は、自分のすぐ内側にいる馬が同じ脚質の場合、なかなか内に入れることが出来なくなるので、普段より後方の位置取りになる可能性があります。
コース条件
スタート直後にカーブがあるなどの特殊条件の場合、外枠の馬はどうしてもコースロスにより先行しづらくなります。また、ダートレースのうち、スタート後一時的に芝を走るコースの場合、外枠の方が芝の距離が長いので、スピードに乗りやすく、内枠よりも先行しやすくなります。
馬場条件
前走がダートのレースだった場合、次走が芝のレースになると、スピードに対応できず前走より後方の位置取りになる可能性があります。逆に、前走が芝のレースだった馬は、ダートレースでもスピード上位と考えられ、前走と同じ位置を楽に確保できます。
過去5走の中でも、特に近走重視
近走で脚質転換の傾向が見られる馬の場合(ガラッと脚質がそれまでと変わっていて、なおかつ好成績に結びついている)、陣営が意識的に新たな脚質を採用している可能性が高いので、そちらを重視します。
他馬の脚質との兼ね合い
レース全体の脚質構成が偏っている場合、相対的に脚質が変化する場合があります。先行脚質が多ければ、そのうちの何頭かは差しに回らざるを得なくなるということです。
騎手の個性と能力
騎手が得意とする戦法が、馬の脚質と大きく外れていない場合は、騎手の独断で脚質を変更する場合があります。騎乗する騎手の特徴を押さえておく必要があります。
陣営の思惑
陣営が意識的に脚質を決定してくる可能性があります。戦前の「逃げ宣言」など、脚質に関するコメントが発生していた場合は、それに注目したほうがいいでしょう。

「脚質の決定と位置取りの分析」まとめ

①馬の脚質は、馬の個々の特徴、騎手の個性や能力、陣営の思惑によって決定される
②馬の脚質は、9つのパターンに分類できる
③競馬新聞に掲載される過去5走から、誰もが同じ基本脚質を導き出せる必要がある
④馬の基本脚質は、過去のレースの3角・4角の通過順位から判断する
⑤馬の脚質は、レース条件における各種の補正情報によって変化する
⑥レース全体の脚質構成が偏っている場合、相対的に脚質が変化する場合がある
⑦基本脚質に補正情報を加え、各馬の次レースでの脚質を設定することが、展開予想の精度をあげる材料となる

馬の脚質は、馬の個々の特徴、騎手の個性や能力、陣営の思惑によって決定されます。馬の特徴は変化しにくいですが、騎手や陣営の思惑はレース単位で変化します。よって、馬の脚質は固定化されず、流動的であることが多いです。しかし、馬が能力を発揮しやすい脚質は大体決まっているので、基本脚質を押さえてしまえば、それから大きくズレることはありません。まずは基本脚質の設定をしましょう。

基本脚質に、各種の補正情報を各々で加え、出走全馬の脚質を9つに分類できたならば、レース像がかなりはっきりと浮かび上がってきます。出走馬の脚質設定の精度が高ければ、それはそのままレース展開予想の精度の高さに繋がります。

馬の脚質と位置取りについて理解を深めたところで、次はレースのタイプ分類にすすみましょう。レースを構成する脚質とレースのタイプの関連性について説明していきます。

 


 

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