レースの流れについて考える [基本編・第一章]【競馬研究所】


レースの流れについて考える

レースの流れとは、スタートからゴールまでの経過の間に起きている、馬同士の駆け引きの移り変わりのことです。移り変わりのポイントは、「スタート」・「序盤」・「中盤」・「終盤」・「ゴール前」の5つに分割することが可能です。

各馬が一斉にスタートし、ポジション争いを繰り広げる序盤、終盤に向けて力を蓄える中盤、そして蓄えた力を全て発揮するために、各馬が仕掛けを開始し、最後の駆け引きとなる叩き合いを演じる終盤。この4つのポイントを順調にクリアした馬が、最終ポイントのゴール前で、上位争いを演じていると言えるでしょう。どこかのポイントで不利を受けてしまうと、上位争いから徐々に脱落していってしまうと言う意味では、競馬は、サバイバルゲームの側面を持っていると言えます。

スタート

レースの流れの出発点となるのが、スタートです。スタートでは、枠順に差があるとはいえ、全馬横一線の状態です。そのため、スタートのタイミング次第で、その後のポジション選択の幅に影響が出ます。好スタートを切った馬は、位置取りの選択肢が大幅に広がりますが、逆に出遅れてしまうと、後方で競馬をせざるを得なくなり、選択肢が極端に狭まってしまいます。レースの最初のポイントであり、なおかつこの一瞬で勝敗が決してしまう場合もあります。

スタートは、レースの濃度を最高に圧縮したポイント

スタートは、最初のポイントであり、なおかつ最大のポイントとも言えるかもしれません。レースで勝つためには、馬の能力を最大限発揮させることが第一条件となります。馬の能力を発揮させるためには、その馬にあったポジション取りが必要不可欠となり、理想的なポジションが確保できるかどうかは、スタートの一瞬で決まってしまうと言えるからです。

JRAで行われるレースは、最低でも1000mは走りますが、スタートで大幅に出遅れてしまったりすると、もはや1000m走るまでもなく結果は見えていると言っていいでしょう。レースは始まったばかりですが、既に脱落してしまう馬もいるのです。それを騎手も重々承知しているからこそ、スタートには最大限気を配り、ピリピリと伝わってくるものがあります。スタートは、レースの先行きを占うという意味でも、重要なポイントと言えるでしょう。

好スタートを切れると、位置取りの選択肢が広がる

馬は、平均時速約60キロで走ります。わずか0.2秒の間に3m以上も走れる計算となります。サラブレッドの体長は、走行中のハナの先から尾の先までの合計は約3mです。つまり、他の馬よりも0.2秒早くスタートを切れただけで、既に1馬身のリードを取ることが出来ます。1馬身という数字は、急な斜行を除けば、スンナリ位置取りを変えることのできる距離です。

他馬に対して1馬身のリードがとれたならば、レースを前方で進めたい場合は、そのリードを生かしてすんなり前のポジションを確保でき、レースを後方で進めたい場合は、若干スピードを抑え加減にすればいいだけです。どちらを選択することも可能となるので、位置取りの選択肢が広がると言えます。好スタートを切れれば、その馬の戦法に左右されることなく、常に有利になると言えます。

出遅れると、位置取りの選択肢が極端に狭まる

出遅れてしまうと、他馬全てに対して、距離のビハインドを負ってしまいます。もし0.2秒以上の出遅れとなってしまった瞬間、1馬身以上のリードを許してしまうことになり、相対的に馬群の最後方を押し付けられてしまいます。

もしも、出遅れた馬が元々差し・追い込みといった馬群の後方から競馬をしたい馬であれば、無理せず大人しくついていけばそれほどの影響はありませんが、逆に前方で競馬をしたい馬であった場合は、そのまま後方にいては能力を発揮できる可能性が極端に低くなってしまうので、なんとかしてポジションを押し上げなければなりません。

しかし、序盤に最後方から前方にポジションを急激に押し上げるには、馬群のスピードよりも一段階上のペースでも走らなければなりません。そうなると、馬にかかる負担も大きく、無駄な労力を消費してしまい、結果的にレースでの勝ち目はほぼなくなってしまいます。そのため、前方で競馬をしたい馬だったとしても、とりあえずは後方で追走し、徐々にポジションを上げていくしかありません。馬の脚質がどうであれ、出遅れは序盤の位置取りの選択肢を、事実上後方追走という1通りに限定してしまいます。

序盤(スタート~2F)

全馬同時にスタートを切ったら、まずは最初のポジション争いが発生します。騎手は、スタート前からある程度理想的なポジション取りを考えていますが、実際スタートを切ると常に思い通りにいくわけではありません。そのため、状況に応じて第二希望、第三希望のポジションの確保へと柔軟に対応します。もし、その時の対応が一瞬でも遅れると、馬の能力を全く発揮できない最悪なポジションを押し付けられてしまう可能性もあり、その時点でレースが終わってしまうこともあります。そして、2F程度で、最初のポジション争いは決着を迎え、隊列は一段落つくこととなります。

スタート後、一瞬で最初の位置取りを決定する

馬は、それぞれ得意とする戦法を持っています。騎手は、自分の騎乗している馬の特徴や戦法をよく理解した上でレースに臨んでいるので、その馬に合ったポジションをレース前からある程度描いています。

しかし、頭の中で描いている通りに事が運ぶことは少なく、いざスタートを切ってみると、多少は事前のスタート予想と状況が変わります。そして、あらかじめ考えていた理想的なポジションを確保できそうかどうかを一瞬で判断します。出来そうだと感じたならば、そのまま第一希望のポジション確保を目指します。しかし、なんらかのアクシデントで第一希望のポジション確保が厳しい場合は、現実的で、なおかつ馬の能力を出来るだけ発揮できそうな第二希望・第三希望のポジション確保へと柔軟に対応します。

一度馬群が落ち着いてしまったら、その後に希望するポジション確保をするのは難しいので、馬群が落ち着く前に瞬時により良いポジションにつける必要があります。もし判断が遅れてしまい、ポジション確保が終了する前に馬群が落ち着いてしまったら、馬によってはその時点でレースが終わってしまうこともあります。

2F程度で隊列は落ち着く

隊列を形成するのは、スタート後、前方にいく馬です。一般的には、逃げ馬・先行馬と呼ばれています。他馬に対して前方のポジションを確保したいということは、他馬よりも最初のペースを速く走る必要があります。

馬が全速力で走れる距離は、約3Fです。レースの中で、この3F以外は、ある程度力を抜いて走っていると言えるでしょう。その全速力で走れる距離を、スタート後に多めに振り分けるのが、逃げ馬や先行馬と考えられ、逆に後方からレースを進める差し・追い込み馬は、ゴール前で全速力で走れる距離を多めに振り分けていると考えられます。

逃げ・先行馬は、全速力で走れる距離を序盤に振り分けますが、ここで使いすぎると最後の直線で使うことの出来る力がなくなってしまうので、ポジション確保のために使える力の猶予は、最大でも2Fまでと言えます。実際、レースのラップを見てみると、ほとんどが2F目がかなり速い時計を記録していて、3F目には既にペースは落ちています。前方のポジション確保を目指す馬が、2Fまでに態勢を整えるので、後続もそれに続き2Fまでにポジション争いは落ち着くと言えます。

中盤(2F~残り3F)

スタートから2Fで、最初のポジション争いが終わり、隊列は落ち着きます。そして、来るべき直線の攻防に備えて、出来るだけ無駄な労力を消費しないように走るため、基本的にペースは一定で流れることが多いです。しかし、最初のポジション争いで、不遇にも予定していたポジションの確保に失敗する馬がいます。そういった馬は、この中盤で徐々にポジションの修正を図る必要があります。

基本的に淡々としたペースで進む

競馬で勝つためには、終盤に出来るだけ多くの余力を残す必要があります。人間の場合もそうですが、無駄な労力を消費せずに走るには、ペースを乱さないことが大事です。ペースに緩急をつけて走ると、心拍数に乱れが発生し、心肺機能に影響を与えます。それは、スタミナの過度な浪費に繋がり、結果的に保有する能力の使用効率が悪いと言えるでしょう。中盤で浪費してしまった無駄な力の影響は、必ず最後の直線でしわ寄せが起きます。そのため、レース中盤は、各馬ともなるべく淡々としたペースで走ります。

序盤の位置どりに不満がある場合は修正する

スタートからの2Fで、隊列が落ち着き、各馬のベースとなるポジションが決定されます。しかし、スタートで出遅れるなどのアクシデントによって、希望のポジションを確保できなかった馬が必ず存在します。現状のポジションのままでは力を発揮できず、レースでの勝ち目がなくなってしまう馬は、この中盤でポジションの修正を行います。

ポジションの修正をするということは、自分のペースを崩して走らなければなりません。自分のペースを崩すと言うことは、それだけ馬に余計な負担がかかり、無駄な労力を消費してしまいます。そのリスクを出来るだけ軽減するために、徐々にポジションを回復させていきます。そのため、外から見てるとそれほど目だった動きはないように感じますが、騎手の頭の中では、緻密な計算がされていると言えます。

勝負どころとなる終盤前には、ポジションの修正は完了してなければならないので、徐々にかつ迅速に対応する必要があります。矛盾しているように見えますが、それを可能にするのが騎手の腕と言えるでしょう。

スムーズに最終コーナーを回るイメージを持つ

競馬で最後の勝敗の分かれ目となるのは、直線の攻防です。たとえ道中でうまく力を温存できたとしても、それを最後の直線で発揮できなければ意味がありません。その道中と直線を結ぶ連結箇所となるのが最終コーナーです。

馬は、カーブを曲がるよりも、直線のほうが速く走ることが出来ます。そのため、カーブにかかるとどうしてもスピードが若干落ちてしまいがちですが、出来ることならば勢いを殺さずスピードを乗せたまま回るのが理想です。しかし、そればかりを考えていると、遠心力で外に膨れてしまい、距離をロスしてしまう可能性もあります。それをふまえた上で、最終コーナーを回る時に通るコースと力加減を、あらかじめ考えておく必要があります。

競馬場によっては、最終コーナーの場所が既に終盤の残り3Fを過ぎているところもあり、仕掛けのタイミングとしても重要な場所です。その最終コーナーを回るイメージを持つということは、仕掛けのイメージを持つということと同意とも言えます。最終コーナーについた時に考え出したら、必ず動き出しは一歩遅れます。それは仕掛けのタイミングに影響を与え、ひいてはレース結果に多大な損害を与えます。スムーズに最終コーナーを回り、そのまま直線への攻防という一連の流れを想定しながらレースを進めなければなりません。

終盤(残り3F~ゴール前)

スタートから中盤まで蓄えてきた力を、爆発させるのが終盤です。レースに勝つために、各馬がそれぞれタイミングを見計らって仕掛けを開始し、自分の馬が不利を受けないような最終的な進路の確保が完了したら、後はゴール目掛けて全力で走るのみです。壮絶な叩き合いは、それぞれの勝利への執念がにじみ出ており、競馬のレースでのクライマックスと言えるでしょう。

仕掛けのタイミングが勝敗を分ける

スタートから中盤まで、極力無駄な力の浪費を抑えて各馬は走ってきました。その蓄えておいた力を徐々に使用し、勝負所でトップスピードへと馬を持っていくのが仕掛けです。

レースで勝つということは、相手よりも一瞬でも先にゴールするということです。それは、相手との相対的な結果なので、仕掛けも相手の余力を計算してする必要性があります。しかし、相手の余力ばかりを気にして、自分の余力を使い切ることが出来なければ、今まで溜めてきた力が無駄となります。相手の余力と自分の余力を、同時に計算し、最も勝算が高いと騎手が考えるタイミングでの仕掛けが必要とされます。

仕掛けのタイミングは、騎手のさじ加減一つです。仕掛けが早すぎれば、ゴール前で失速し、他馬に交わされてしまいます。かといって、仕掛けが遅すぎれば、他馬を捕らえきれず、脚を余し、不完全燃焼という結果となってしまいます。仕掛けは、馬の力を完璧に引き出せるかどうかの重要なポイントであり、勝敗の最大の分かれ目となると言えます。

抜け出すスペースを確保する

馬の力を完全に出し切れない時は、脚を余した時です。脚を余す可能性があるのは、騎手が仕掛けのタイミングを間違えてしまった時と、直線で前が塞がるなどの不利を受け、トップスピードでいられる時間が予定より少なかった時の2つがあります。

騎手が仕掛けるタイミングは、そこからゴールまで追い続ければ、ちょうど力を全て発揮できると騎手が計算した場所です。ということは、馬の力を出し切るためには、仕掛けた後にスピードダウンを迫られるわけにはいきません。そのためには、確実な進路の確保が必要となります。前方で競馬をしている馬は、自分よりも前に馬がそれほどいないので、比較的楽に進路の確保ができますが、後方で競馬をしている馬は、前方の馬が経済コースと言われる内側を通っていることが多いので、直線で安全に外を出す傾向にあります。

ゴール前

スタートから始まり、様々な道中の出来事を経て、ゴール前までたどり着きました。スタートから、能力を発揮できうるポジションの確保に成功し、出来る限り無駄な労力を消費せず、仕掛けどころも完璧で、ゴールの瞬間に力を全て使いきれた馬が、ゴール前で上位争いを演じます。一つのレースの流れの終着点と言えるでしょう。

全てのポイントをクリアしてきた馬が上位争い

スタートから終盤まで、馬に無駄な労力を消費させる可能性のあるポイントが多数存在してきました。それぞれのポイントで、何頭かずつ無駄な労力を消費してしまい、最後まで無傷でこれる馬はそう多くはありません。各ポイントを生き残ってきた馬が、サバイバルゲームの決着をつけるのがゴール前と言えます。

力が多少上位であったとしても、道中の各ポイントで、無駄な労力を消費してしまえば、力の構図はあっさりと逆転してしまいます。そして、逆に余力は多くあったとしても、騎手が仕掛けのタイミングを間違えてしまえば、余力の少ない馬が完璧に仕掛けると、再逆転が起こる可能性もあります。これを式にすると以下のようになります。レースで力を発揮できた度合いが高ければ高いほど、上の着順になると言えるでしょう。

  • (馬の能力-無駄な労力)+仕掛けのタイミング=レースで力を発揮できた度合い

「レースの流れについて考える」まとめ

①レースは、スタートからゴール前まで全部で5つに分けられる
②スタートは、レースの最初のポイントであり、勝敗を分ける可能性もある
③スタート後、最初の位置取りは一瞬で決定される
③隊列は2F程度で落ち着く
④中盤で、最初の位置取りに不満がある馬はポジション修正を行う
⑤仕掛けのタイミングが、レースの最終的な結果を左右する
⑥(馬の能力-無駄な労力)+仕掛けのタイミング=レースの着順

レースは、スタート→序盤→中盤→終盤→ゴール前と5つのポイントに分割することができます。スタートは、最初にありながら、なおかつその後のレース展開に大きく影響を与える重要なポイントです。スタートで出遅れるようなことがあれば、最初の位置取りを大きく制限され、それはレースでの勝ち目を薄くしてしまいます。

スタートの出足で、各騎手は一瞬で確保できるポジションを判断します。そしてポジション争いは、2F程度で落ち着きます。中盤では、直線へ向けて各馬とも力を温存するので、淡々としたペースで走るのが基本です。序盤のポジション争いに敗れた馬は、この中盤で徐々にポジションの修正を行います。

残り3F付近になると、騎手が勝負所と判断したところで、温存していた力を徐々に使用して仕掛けだします。この仕掛けのポイントを誤ると、力を完全には発揮できず、レース結果に直接的に影響するので、騎手にかかる責任は重大と言えるでしょう。そして、スタートからゴールまで、全てがスムーズにいった馬がレースに勝つという結果になります。

大まかなレースの流れを見てきました。競馬のレースがどのように推移していくのかがつかめたと思います。レースの流れは、様々な要因を受けて色々な形に変形します。次はいよいよ、レース展開の具体的な基本形に入っていきます。


 

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