レースのタイプ分類

レースのタイプ分類の基礎となるのは、ペースによる分類です。既に競馬社会に浸透しているペースによる分類は、レースの全体像をイメージするものとしては最適です。しかし、よりレースの本質に近づくためには、レースを意味のある塊ごとに分割して分析することが重要となります。

スロー・ミドル・ハイの3つに分類されたレースは、それぞれ意味のある塊ごとに分割することにより、より細分化できます。細分化されたレースを分析することによって、レースの本質を掴むことが初めて可能となります。

レースはペースによってタイプ分類される

競馬のレースは、3種類のペースによって初期のタイプ分類がされます。初期のタイプ分類で、アバウトなレースの全体像を想像し、それをさらに意味のある塊ごとに細分化することによって、レースの本質へと近づいていきます。

ペースは3つあり、それがレースの初期タイプ分類となる

レースの初期タイプ分類
スロー 前半のタイムが後半のタイムより1秒以上遅いレース
ハイ 前半のタイムが後半のタイムより1秒以上速いレース
ミドル 前半のタイムと後半のタイムの差が1秒以内のレース

競馬には主に3つのペースがあります。スロー・ハイ・ミドル。ペースは、レース前半のタイムと後半のタイムの差によって決まります。前半が後半より遅ければスロー、反対に前半が後半より早ければハイとなり、大体同じであればミドルとなります。

大体同じであれば、というアバウトな表現を用いましたが、実際にペースを完全に決定する明確な基準というものは存在しません。専門家の判断一つで決定されます。しかし、線引きの基準としては、前後半のタイム差が1秒以内におさまっていればミドル、1秒以上の差が生じていればそれぞれスロー・ハイと考えていいでしょう。

レースが一体どのような内容だったかを一番手っ取り早く知るためには、そのレースのペースを知るところから始まります。ペースを知ることにより、前半と後半でどのような動きがあったかをぼんやりとイメージすることができます。レースの全体像を掴むために3つのペースにレースを分類することは、競馬の世界でも浸透しており、一番馴染みのあるタイプ分類だと言えるでしょう。スロー・ミドル・ハイの3つの分類が、レースの根本的なタイプ分類となります。

レースの本質を掴むためには、レースを意味のある塊ごとにさらに細分化

レースをさらに細分化
スロー 右肩上がり型 後半頭から徐々に加速
ヨーイドン型 ラスト3Fだけ急激に加速
ハイ 直線手前スロー型 直線を前に息が入る
一本調子型 途中で全く息が入らない
ミドル 緩急型 最高ラップと最低ラップの差が1秒以上
一定型 最高ラップと最低ラップの差が1秒以内

競馬のレースの特徴を、簡単に3つに分類できるという意味では、スロー・ミドル・ハイというのは優秀な分類方法だと思います。しかし、レースの全体像を把握するためには問題ありませんが、そのレースを細かく分析するためには、より詳細なペース判断が必要といえるでしょう。3つに分類されたレースを、さらに細分化していく必要があります。

競馬のレースは、最大限細かく分類すると、ハロンごとに分類できます。1ハロンは200m。競馬は200mごとにタイムを計測する仕組みです。その200mごとのタイムの移り変わりを見ることによって、レースの本質がはっきりと掴めてくるはずです。

しかし、3つに分類したものを突然ハロン単位にしてしまっては、大きく飛躍しすぎな感も否めません。そこで、ハロンを意味のある塊ごとに分割してみます。塊ごとに分類することによって、レースの特徴がはっきりと浮かび上がり、レースの本質がより鮮明に見えてきます。新聞紙上などでは、ペース単位でしか括られていないレースの内面を解明することにより、よりレースの本質、そしてそのレースを勝った馬の本質に近づくことができます。ここでは、基幹距離ともいえる、芝の2000m戦を例に取り上げて見ていきます。

スローペース

前半のタイムが後半のタイムより1秒以上遅いペースのことを指します。スローペースは、底力とスピードの両方が要求される「右肩上がり型」と、残り3Fまでペースが落ち着いたままで、瞬発力のみが要求される「ヨーイドン型」の2つに分類できます。

前半で余力が残しやすく、後半の決め手勝負

スローペースの前提は、前半のタイムが後半のタイムより1秒以上遅いことです。これが意味することは、前半よりも、後半でより多くの力を使用したということです。前半のペースが遅い分、どの馬も余計な力を使わずに追走できるので、後半により多くの余力が残っていることになります。よって、多少スタミナに不安のある馬でも、乗り切ることができるのがスローペースのレースです。

俗にスローペースといっても、その本質は2つに分類されます。右肩上がり型と、ヨーイドン型。どちらもスローペースですが、その内容は全くといえるほど違うものと言えます。片方の型で勝てる馬は、おそらくもう片方の型では勝つのは難しいでしょう。

右肩上がり型

後半頭から徐々にペースが上がっていくスローペースを、右肩上がり型と分類します。

2006/5/27 東京 3歳500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
63.3 24.4 35.2 2.02.9
12.7 12.2 11.7 12.3 平均ラップ

レースを前半と後半、そして後半を3角前2Fと、上がり3Fの全部で3つの塊に分割してみます。前半が後半より3.7遅いスローペース。そして、各塊ごとの平均ラップを見ていただけるとわかるように、1000m通過が12.7、3角前2Fが12.2、上がり3Fが11.7と徐々にペースがあがっていっています。

この場合、3角前2Fでペースが上がっている分、それまで溜め込んでいた余力を多少消費しているので、上がり3Fのタイムは飛びぬけて速いものではありません。各塊ごとに、平均ラップが0.5ずつ綺麗に上昇しています。このように、3角前2Fでペースが上がり、上がり3Fが多少かかるレースは、長くいい脚を使えるタイプの馬が得意とします。底力も要求されることになり、瞬発力だけに秀でる馬には向いていません。

ヨーイドン型

残り3Fまでペースが上がらず、ラスト3Fの瞬発力勝負に特化したスローペースを、ヨーイドン型と分類します。

2005/5/14 東京 3歳500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
62.4 25.2 33.8 2.01.4
12.5 12.6 11.3 12.2 平均ラップ

前半が後半より3.4遅いスローペース。各塊ごとの平均ラップを見てみると、1000m通過が12.5、3角前2Fもほぼ同じペースの12.6で走っています。そして、上がり3Fで一気にギアチェンジをして11.3と加速しています。

この場合は、残り3Fまで徹底してペースがあがらず、どの馬も余力を十分に残しているので、上がり3Fのタイムもかなり速いものとなりました。このような、実質残りの600mで雌雄が決せられるレースは、瞬発力に秀でる切れ味タイプの馬が得意とします。全ての馬が余力十分なため、スプリント能力だけが問われます。一瞬の脚が使えない長くいい脚タイプの馬には向いていません。

ハイペース

前半のタイムが、後半より1秒以上速いレースを指します。ハイペースは、後半に差し掛かったところで息が入る「直線手前スロー型」と、とにかく一本調子で速く、終いバタバタになる「一本調子型」の2つに分類できます。

前半で余力が残しづらく、底力勝負

ハイペースの前提は、前半のタイムが後半のタイムより1秒以上速いことです。レースの後半よりも、前半部分での力の消費が大きなウエイトを占めています。前半部分での力の消費を余儀なくされるため、後半に向けて余力を温存することが出来ません。よって、余力の少ない馬同士の攻防となるので、よりスタミナの最大値の高い馬や、底力に秀でた馬の台頭が目立ち、逆にスタミナに不安のある馬には苦しいレースとなります。

ハイペースも、その本質は2つに分類されます。直線手前スロー型と、一本調子型。どちらもハイペースですが、その内容はやはり全く違うものと言えます。しかし、どちらにも言えることは、前半で大きな力を消費している分、それを補うことが可能なだけのスタミナと底力が要求されるということです。この2つのスキルに秀でていないと、ハイペースのレースでは勝つことが出来ません。

直線手前スロー型

レース後半で息が入り、上がり3Fで最加速するハイペースを、直線手前スロー型と分類します。

2006/5/13 東京 夏木立賞 500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
60.1 26.1 35.5 2.01.7
12.1 13.1 11.9 12.2 平均ラップ

前半が後半より1.5速いハイペース。各塊ごとの平均ラップを見てみると、前半を12.1のペースで飛ばしていたところを、3角前2Fで13.1までペースが落ちています。これを、「息が入る」といいます。そして、上がり3Fで再びペースが上がって11.9

この場合は、前半のハイペースで消費されていた力の補填を、3角前2Fで行っています。わずか2Fの短い期間ですが、ここで息が入ることによって、多少の余力を確保することができ、上がり3Fもそこそこのタイムで乗り切れるようになります。前半のハイペースによる力の消費に耐えられるだけのスタミナと、速めの上がりを駆使できるだけの瞬発力が同時に求められるタイプのレースです。

一本調子型

途中で息の入らないハイペースを、一本調子型と分類します。

2006/10/8 東京 3歳以上500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
58.6 24.9 37.0 2.00.5
11.8 12.5 12.4 12.1 平均ラップ

前半が後半より3.3速いハイペース。各塊ごとの平均ラップを見てみると、前半を11.8のハイラップで飛ばしています。3角前2Fで、12.5と一見息が入っているかのように見えますが、その後の上がり3Fではペースを上げることが出来ずの12.4。本来多少なりとも溜め込んだ余力を発揮するために、上がり3Fは他の塊よりも速くなりがちなのですが、ペースアップができないということは、道中で息を入れることができていないことの表れです。3角前2Fのペースダウンは、息が入ったものではなく、失速してきたという評価が妥当となります。

直線手前スロー型と違い、こちらは道中で息が入らないのが特徴です。そのため、前半で消費した力を補填する期間が一切なく、ほとんどの馬が最後にはガス欠状態で走っています。そのため、スタミナの絶対値の上に、スタミナが切れた後の底力を要求されます。いわゆる前崩れが起きるのはこのタイプのレースの時です。

ミドルペース

前半と後半のタイム差が1秒以内のレースを指します。前半と後半にタイム差のあまりないミドルペースですが、全体を2分割にすると差があまりないように見えるだけで、より細かくハロン単位に分割してみると、最高ラップと最低ラップに1秒以上差のある「緩急型」と、差が1秒以内の「一定型」の2つに分類できます。

最も総合的な実力が問われるペース

スローペースやハイペースと比べて、ミドルペースでは、ある能力に特化している必要はありません。全体的な総合力が問われるので、どのファクターにおいても上位の力を持つ馬、いわゆる実力馬が勝ちやすいレースと言えます。逆に言えば、たとえ瞬発力に秀でていても底力に欠けていては駄目で、底力に秀でていても瞬発力が欠けていてた駄目といったように、決まったウィークポイントがある馬には厳しいレースと言えます。

ミドルペースと言うと、最初から最後までダラダラとしたレースというイメージがあるかもしれません。もっとも、レースを単純に2分割したら、前半と後半が同じくらいのタイムなのですからそう思ってしまうのも無理はありません。しかし、その細部を覗いてみると、道中のペースが大幅に変化する緩急型と、ある一定のペースからはみ出さない一定型の全く特徴の違う平均ペースが存在します。

ペースの緩急に目をつけた分類方法で、レース中の最高ラップと最低ラップを比較し、そのタイム差に注目します。この時、レースのスタート後2F目までは無視します。基本的に、競馬のスタート後1F目はダッシュが利いていないので遅く、2F目はポジション争いのために速くなり、どちらもレースのペースの緩急にあわせて生じる現象ではないからです。

緩急型

レース中の、初期2Fまでを除く最高ラップと最低ラップの差が、1秒以上ある平均ペースのことを、緩急型と分類します。

2005/11/12 東京 3歳以上500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
61.0 24.9 35.1 2.01.0
12.2 12.5 11.7 12.1 平均ラップ

13.0 - 11.7 - 11.9 - 12.0 - 12.4 - 12.4 - 12.5 - 11.9 - 11.2 - 12.0

最高ラップと最低ラップの差が、1.3あるこのレースは、緩急型と分類できます。前半のタイムが61.0で、後半のタイムが60.0の平均ペースですが、道中遅い部分と速い部分の差がかなり激しいです。ハイペースの、直線手前スロー型と似たタイプです。やはり3角前2Fで息が入る分上がりも速くなり、瞬発力が必要とされます。

同じ緩急型に含まれますが、例外といえるのが下記の例です。

2006/5/28 東京 4歳以上500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
61.0 24.8 37.2 2.03.0
12.2 12.4 12.4 12.3 平均ラップ

13.0 - 11.7 - 11.7 - 12.1 - 12.5 - 12.4 - 12.4 - 12.0 - 12.1 - 13.1

最高ラップと最低ラップの差が、1.4あるこのレースも、緩急型と分類できます。しかし、このレースが特徴的なのは、最高ラップがレース前半にあり、最低ラップが最終ハロンにあることです。

3F目に最高ラップがくるときは、大抵が2Fまでに終わるはずのポジション争いが長引いてしまった時です。本来このパターンの時は、ハイペースとなることが多いのですが、スタート後の1F目が遅かったために、平均ペースに分類されてしまいました。

上がり3Fが、徐々に減速していき、最終ハロンがレースの最低ラップを刻んでいるということは、スタミナと底力の問われるレースであったと考えられます。これは、ハイペースの一本調子型の時に必要とされる能力です。同じ平均ペースの緩急型でも、こういった例外もたまにはあるということです。

一定型

レース中の、初期2Fまでを除く最高ラップと最低ラップの差が、1秒以内である平均ペースのことを、一定型と分類します。

2005/10/9 東京 3歳以上500万下
1000m通過 3角前2F 上がり3F 走破タイム
60.0 24.2 36.3 2.00.5
12.0 12.1 12.1 12.1 平均ラップ

13.1 - 11.5 - 11.7 - 11.6 - 12.1 - 11.9 - 12.3 - 11.9 - 12.0 - 12.4

最高ラップと最低ラップの差が0.8しかないこのレースは、一定型に分類できます。11.6~12.4という狭い範囲内でレースが消化されており、いわゆる淡々としたペースという表現がぴったりきます。これが、一般的にイメージされる平均ペースでしょう。

ペースにアップダウンが少ないため、無駄な力を消費しにくいと言えます。しかし、ペースが上がらないかわりに、下がることもないので余力を溜め込むタイミングがありません。そのため、上がりが特別速くなることはなく、一定のスピードを持続する能力、長くいい脚を使うことが必要とされます。

「レースのタイプ分類」まとめ

①競馬のレースは、ペースによって分類される
②ペースは、スロー・ミドル・ハイの3つに初期分類ができる
③レースの本質を掴むためには、レースを意味のある塊ごとに分割して分析する
④スローは「右肩上がり型」と「ヨーイドン型」の2つに分類でき、決め手勝負になりやすい
⑤ハイは「直線手前スロー型」と「一本調子型」の2つに分類でき、底力勝負になりやすい
⑥ミドルは、「緩急型」と、「一定型」の2つに分類でき、最も総合的な実力が問われる

競馬のレースは、スロー・ミドル・ハイの3つのペースによって初期分類されます。ペースを知ることによってレースの全体像はイメージできますが、レースの内部を把握するためには、レースを意味のある塊ごとに分割し、より細かい分析をする必要があります。意味のある塊ごとにレースを分割し、レースの内面を解明することによって、レースの本質を掴むことができます。

レースの前半タイムが後半タイムより1秒以上遅いレースはスローペースに分類されます。スローペースは、前半のタイムが遅い分余力を溜め込みやすく、後半の決め手勝負になりやすい傾向があります。その内部は、後半のペースが徐々に上がっていく「右肩上がり型」と、ぎりぎりまでペースのあがらない「ヨーイドン型」に分類されます。

レースの前半タイムが後半タイムより1秒以上速いレースはハイペースに分類されます。ハイペースは、前半のタイムが速い分余力を溜めづらく、後半の底力勝負になりやすい傾向があります。その内部は、直線手前で息が入る「直線手前スロー型」と、全く息の入らない「一本調子型」に分類されます。

レースの前半タイムと後半タイムが1秒以内のレースはミドルペースに分類されます。ミドルペースは、ラップ単位での分析が必要とされ、最高ラップと最低ラップの差が1秒以上ある「緩急型」と、差が1秒以内の「一定型」に分類されます。

レースのタイプ分類方法が理解できたら、次はレースの基本形に進んでいきます。レースのタイプと、レースの形には密接な関係があります。常にレースのタイプは何かを意識しながら、レースの形について考えていきましょう。


 

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